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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)4409号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人桜井紀の上告趣意第一点について。

論旨は、原審が警察官職務執行法二条三項を不法に拡張解釈し、原判示の如く人の自由を拘束することを是認したのは、憲法三一条、三三条、三四条、三五条等に違反すると主張する。しかしながら原判決の認定した事実によれば、被告人は昭和二七年七月二三日午後九時頃名古屋市中村区中村公園内千成池遊園地において、外三名の者と密談中のところ、折から犯罪捜査のため警羅中の名古屋市中村警察署勤務巡査尾関末雄同吉野忠義の両巡査から挙動不審者として職務質問を受け、被告人の所持品につき応答中、最寄の中村公園派出所まで同行方を求められるや、突如その場を逃走したので、両巡査が更に職務質問をしようとして近寄った途端、被告人は矢庭に右両巡査を足蹴にして暴行を加え、両巡査に傷害を負わせ以て右両巡査の公務の執行を妨害したというのであって、原判決中には所論のように、人の自由を拘束した事実は認定されていない。巡査から挙動不審者として職務質問を受け派出所まで任意同行を求められた者が突如逃走した場合に、巡査が更に職務質問をしようとして追跡しただけでは、人の自由を拘束したものではなく、巡査の職務行為として適法であること原判決の説示するとおりである。それ故、原判決は所論のように警察官職務執行法二条三項を不法に拡張解釈したものではなく、また人の自由を拘束した事実を判示したものではないので、所論違憲の主張は前提を欠き理由がない。

同第二点について。

原判示の事実が公務の執行と認められることは、第一点に説示したとおりであるから、これと反する見解に基く所論は採用できない。なお、本件には刑訴四一一条を適用すべき事由も認められない。

よって、刑訴四〇八条に従い、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官小林俊三の後記意見を除き、裁判官全員の一致した意見によるものである。

裁判官小林俊三の意見は、次のとおりである。

本件は原判決を破棄し原審に差し戻すべきものと考える。本件の第一審は公務執行妨害の部分を無罪としたが、原審は検察官の控訴に基き、単にいわゆる書面審理のみにより破棄自判して右公務執行妨害の部分をも有罪とした。このような手続は違法であって、控訴審は自から事実の取調を行った後でなければこれをなすことを許されないと解すべきである。その理由の詳細は、昭和二七年(あ)第五九七号同二九年六月八日第三小法廷判決において述べたとおりであるからこれを引用する(判例集八巻六号八二一頁参照)。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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